巧の部屋 ながやす巧の漫画術

第5回
人物はぶっ続け一気描き

前回は「ながやす流」絵コンテ(ネーム)のコダワリについてお話しました。修正に修正を重ねて、第4章の場合ノート8冊分にもなった膨大な量にも驚きますが、最終稿のうえさらに人物背景を描き込んだ「原作者の浅田先生チェック用」まで、以前は用意されていたという周到さには脱帽です。
さて絵コンテ完成で、いよいよ作業は下描きからペン入れへ進むわけですが、ここでも「ながやす流」一気通貫のプロセスが待っています。

絵コンテ作業終了後、最終版コンテを元にいよいよ原稿の下描きに入ります。この時点でも構成が変更されて「ここに人物アップを足したい!」とか「絵で説明するから、このセリフはいらない」などなど、変更が加わることも多々あります。
もちろん「ながやす流」に従って、下描きも一章480ページ分を一気に入れていくのですが、具体的にはまず人物や背景のアタリを一旦全ページにわたって入れた後、次に細かく人物と背景を、ページ順に鉛筆で細密に描き込んでいくという2段階で作業するそうです。

きっちり下書きが入ったところで、いよいよペン入れですが、ここで「ながやす流」のコダワリが加わります。
通常、漫画家はペンをページ順に入れていくものですが、ながやす先生は、まず「キャラ別」に(たとえば斎藤一なら、斎藤一だけを)最初から最後まで480ページ、ぶっ通してペン入れします。
こうして主役クラスを人物別に入れ終えたら、次は脇役、そして背景…という順番。
なぜ人物別に最初から最後まで通してペンを入れるかといえば「人物の心の動きや行動などの表現を、よりリアルに描くため」だとか! ページ順にすべてを一斉に入れると、なにせ500ページ近い量ですから、最低でも数か月…下手すると年単位のペン入れ作業になります。そのタイムスパンでペンを入れるうちに「最初と最後で人物の表現タッチが微妙に変化してしまう」といったことを防ぐ意味もあるようです。

なので、このペン入れ作業を、先生は人物単位で何度も繰り返し最初から最後まで通して入れていく、ということになります。
もっとも、常に「一人の人物を入れている間、それ以外のキャラには一切触れない」というわけではなく、たとえば日によって「ペンのノリが悪い時には」脇役や小道具など、少々タッチが気に入らなくても、大勢に影響ない部分でペンの試し入れをする、ということはあるそうです。

ちなみに先生が使うペン先は『壬生義士伝』ではもっぱらGペンで、たまにタッチの調整用に丸ペンや背景用のピグマ(極細サインペン)を併用します。
調子がいい時にはペン先をめったに換えないのがポリシーで、以前は単行本一冊分をたった一本のGペンだけで描き切ったこともあるとか!

さて「ながやす流」漫画術のコダワリをお話したところで、次は先生の漫画執筆にすべてを賭けた日常…それもなぜか一日が26時間!…の秘密をお話しましょう。

本編カット たとえばこのページのペン入れも、貫一郎、みよ、少年時代の二人、背景…など、何回かに分けて行われているわけです。
→次回
【ながやす流 一日26時間】に続く
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