壬生用語辞典

第三章 第9話
(単行本第6巻)P027〜P050

物見役
物見役
(ものみやく)

古来よりこの種の裏仕事(殺生ごとなど危険な案件)には、実行役に加えて「物見役」…つまり顛末を見届けて、組織に報告する役が別にいたものです。何が現場で起こるか分かりませんので、物見役は現場の殺生ごとには加わらず、必ず生きて逃げ帰ることが要求されます(これは決して卑怯な振る舞いではありません)。
この「七条油小路」の一件では、先に襲われた伊東甲子太郎の回収役が三名(それに駕籠担ぎ人足が二名)に対し、物見役は篠原泰之進ほか三名という構成でした。回収役より物見役の方が多いのは少し気になりますが、要は命を落とした三名の御陵衛士は新選組刺客たちの襲撃を受けても、なお伊東の遺体回収に拘って奮戦した結果に過ぎないと考えるべきでしょう。

→初出 第6巻p034

服部武雄
服部武雄
(はっとりたけお)

高台寺党随一の遣い手と評される人物で、実は前回(第7話)にも藤堂平助や毛内有之助ら七条油小路に駆けつけた衛士たちと共に登場しています。
出自は元赤穂藩士で、奸臣を斬って脱藩した…という記録がありますから、藩内で何らかのいざこざがあり出奔したと思われます。二刀流の達人で江戸表に出た折に藤堂平助、伊東甲子太郎らとの交流もあって元治元年(1864年)、伊東らと共に新選組へ入隊し、翌年には吉村貫一郎と同役の諸士調役兼監察・撃剣師範を務めました(服部と吉村との因縁については、本章第9話で改めて詳しく語られます)。
油小路の惨劇では、襲撃してきた新参古参含めて総勢40名もの新選組隊士と対峙し、討ち死にすることになりますが、彼がその場から逃走しなかったのは「秘かにただ一人、御陵衛士のなかで鎖帷子を着付けていた(なので、逃走するには重くて不利)」服部が、仲間を無事に逃がすため敢て踏み止まり、囮となったのだ…という説もあります。

→初出 第6巻p035

奸賊ばら
奸賊ばら
(かんぞくばら)

奸賊(姦賊とも書きます)とは「心がねじけて邪悪な者・憎むべき悪人」といった意味です。語尾に「ばら(輩)」を付ければ「奸賊のやから(奸賊ども)め!」と服部武雄は、かつての同志に向けて最悪の罵声を浴びせたことになります。
かつては一味同心を誓い、分派したとはいえ穏便に協力関係を保っていたはずの元仲間から突然、卑劣にも闇討ちを食らった立場からすれば、いくら罵詈雑言を浴びせても足りないほどの怨讐が吹き出したことでしょう。

→初出 第6巻p044

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