巧の部屋 ながやす巧の漫画術

第2回
準備2年、写真3千枚強

前回、「ながやす巧流」の「アシスタント不在で一気通貫術」つまり、一章分約500ページをたった一人で一気に描くプロセスなどについてお話しましたが、ここでちょっと時間を戻して、そもそも『壬生義士伝』執筆に当たって、ながやす先生が行った準備作業についてお話しましょう。
浅田次郎先生の原作小説『壬生義士伝』を漫画化するという企画が決まった時点で、ながやす先生は資料集めと取材旅行を並行して開始。ここまでは通常の漫画連載と同じ当り前のプロセスなのですが、この準備作業に合わせて2年以上を費やしたというのは、ぜんぜん当り前ではありません!
ここで漫画製作の裏舞台、ながやす先生の「執筆に入る前の準備」の膨大かつ緻密極まりない作業をご紹介します。

1. 取材
最初に訪れたのは物語の舞台である京都、それから夏の盛岡。浅田先生も同行して頂いて各地を探訪、写真ほか資料収集、スケッチなどを行いました。京都と大坂へはもう一度取材したのち、さらに冬の盛岡へ。足先から膝まで凍りつく感覚を味わい、吉村貫一郎たちが生活した環境の厳しさを、身をもって体験されたそうです。

盛岡取材写真 夏の盛岡取材では、原作者の浅田次郎先生も同行。各地を車で走り回りながら、ながやす先生に吉村貫一郎の育った原風景を詳細に解説頂いたとか。

2. 設定画の作成
本編小説を熟読し、キャラクター設定や舞台設定など、登場するシークエンス別にリストアップし、準備しました。当時の担当編集さんにも資料集めをお願いし、また取材旅行では3500枚を超える写真を撮ったとか。
この写真や資料画像などをもとにスケッチをし、さらに必要部分を細密な設定資料にして起こしています。

設定画1 設定画2

けど、そもそもスタッフへ伝える必要もないのに(アシスタントは使わないのが「ながやす流」だし)、ここまで綿密な設定資料を準備するのはなぜなのでしょう?
もともと、知らない時代を描くためには想像だけでは無理。まして時代劇となると、現存しない風景を描かなければならないわけです。だからこそ、古い書物に載っている写真や、歴史博物館などで資料を集め、当時の風景や建物、コスチュームなどを描き起こし、設定画にして起こす意味が出てくるわけです。
たとえば舞台となった現在の街並みを写真に撮っておいても、それを先生自身が起こした設定画というフィルターを通せば、舞台となった時代の風景に変わる…というわけですね。

こうして起こされた膨大な分量の人物&背景設定資料ですが、これでも最初にスケッチした量の1/3程度だというのだから、どれだけ準備に期間をかけたか想像できます。
…ただ、それでも先生いわく「まだ不足している資料がいくつもある!」とのこと。ながやす流コダワリには、終わりがありません。
では次回は、いよいよ開始した漫画執筆「最初の作業」について、まず通常の作家さんが行わない「ながやす巧流」独自のプロセスをご紹介しましょう。

次回
【写経と字コンテ】に続く
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