巧の部屋 ながやす巧の漫画術

第15回
斎藤一への序曲〜魅力は吉村を超える!?

前回まで、ながやす巧版『壬生義士伝』誕生秘話をお話してきましたが、さていよいよこの夏から第四章・斎藤一編が満を持して連載開始…ということで、今回は趣向を変えて、ながやす先生(と、原作者の浅田先生)の、斎藤一にまつわるお話をしましょう!

新選組ファンや『壬生義士伝』ファンの方なら、知らぬ人はいないでしょうけど、一応念のために説明しておきましょう。
新選組副長助勤にして三番隊隊長・斎藤一。
沖田総司や永倉新八、そして吉村貫一郎と並ぶ新選組名うての剣客ながら『壬生義士伝』では、なぜか吉村貫一郎とは微妙に反りが合わないせいか、何かと対立してしまう人物として描かれています。
さらに第三章「池田七三郎編」では、新選組から分派した伊東甲子太郎の率いる御陵衛士一党の隊士として登場。なのになぜか程なくして、ある寒い日にフラリと(対立してるはずの)新選組の屯所にやって来て、しかも翌日から「公用旅行から戻った」という触れ書き一枚で、何もなかったかのように「新選組」三番隊隊長として復帰するという不可思議なエピソードも披露してくれました。

本編カット

まあ。こんな謎めいた人物ですから斎藤が屯所に現れた際に、新米隊士の池田七三郎がてっきり「御陵衛士の斎藤が殴りこみに来た!」とドタバタ大騒ぎしてしまったのも、無理からぬことですね。
さらに(これはあくまで池田七三郎の推理ではあるけれど)近江屋での「坂本龍馬暗殺」では、まさに凄絶そのものの殺陣シーンを魅せてくれました。
そしていよいよ、第四章ではこの斎藤一自身による「壬生義士」吉村貫一郎の思い出が語られることになります。

実は今だから話せる真実(!?)なのですけど、原作者・浅田次郎先生もながやす巧先生も、本編の主人公・吉村貫一郎以上に、実は斎藤一に惹かれていました!! 実は『壬生義士伝』陰の主役は、何を隠そう斎藤一その人だったのです!!
…なんて言い切っていいのかな…
ちょっと「盛っちゃった」宣伝文句を吐いてしまいましたが、実際に浅田先生が、ながやす先生の漫画化オファーを一発で快諾したときに、一番ワクワク期待していたのが、主人公・吉村貫一郎を差し置いて、この斎藤一をながやす先生はどう描いてくれるか、だったというのは本当です。
(もちろん、担当編集さんを通しての伝聞情報ですけど)

もっと正確にいえば「吉村貫一郎と斎藤一」の名シーンがどう描かれるか!

注目ポイントは(原作小説では、上巻のラストシーンに当たる部分なのですが)新米隊士の吉村貫一郎がさる酒席で斎藤一と初対面した場面。
新隊士たちを歓迎する京都・島原の料亭での…本来なら、和やかに進むはずの宴席の様子が…斎藤一の視点からは全く別物として語られます。
斎藤から見ても、ただの垢ぬけない善良そうな田舎侍。そんな吉村が剣客と名高い斎藤に敬意を表しつつ精一杯愛想をふりまいて、語りかける。なのに、そのとき斎藤が胸の底から湧きあがってきた感情は、好意とはまったく真逆のものでした。
そしてその感情は、吉村の屈託のない様子に接するうち、彼の中でどろどろと膨らみ、抑えきれなくなっていくのです。
宴もたけなわ、あえて斎藤はかなり酩酊したと理由をつけ、吉村を酒席から帰路の送りを頼んで土砂降りの夜、京都島原の路地へと誘います。
…もちろん心の奥底に、暗い情念の炎を滾らせて…。
読み進むうちに、ヒリヒリするほどの緊張感が漂う原作の名シーンが、ながやす先生の手によってどう展開したのか、本編でじっくりお楽しみください。

さて一方、浅田先生の熱い期待を受けた、ながやす先生ですが、この斎藤一を描くに当たっては、吉村貫一郎とは「ちょうど真逆の」並々ならぬ思い入れがあったそうです。
それは何?…といったところで、続きは次回にしましょう。

次回
【斎藤一への序曲〜斎藤は「持ってる!」】に続く
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