巧の部屋 ながやす巧の漫画術

第4回
下描きノート8冊分

前回は『壬生義士伝』絵コンテ作成の前に、ながやす先生が原作小説を丸写しして内容をじっくり吟味した作業(名づけて「写経」!?)と、それに続いて一章分全部をセリフ(フキダシ)と文字で割るという「字コンテ」…ながやす巧流独自の準備作業についてお話しました。
…さて、これが完了して初めて俗に言う「ネーム」、絵コンテ作業へと取りかかるわけなのですが、これがまた「ながやす流」コダワリの連続なのです!

「字コンテ」をもとに、いわゆる「ネーム」つまり絵コンテを起こす。
…と一言で書けば簡単ですが当然ながら、ここで人物や背景のアタリを入れながら絵コンテを膨らませると、イメージが具体化すればするだけ、コマ割りの変更や修正が何度も重なります。先生はこれを「初稿」と呼んでいますが、現在作業中の第4章「斎藤一編」の場合、内容の差し替えを何度も重ねた挙句、コンテは合計ノート8冊分にもなったとか。
(当然、ツギハギ差し替え前のバージョンをいちいち保管していたら仕事場がパンクするので、クリンナップした最終版の絵コンテと、元になった字コンテを1セットだけ残して廃棄するそうですが)
ちなみに、1章から2章にかけては原作者である浅田次郎先生にチェック頂くために、ほとんど下描きと見まがうほど、細密に人物と背景を描き込んだバージョンをさらに作成していました。
(さすがに現在の浅田先生は、ながやす先生に「お任せする」ということでコンテに目を通されることもなく、このバージョンは作っていないそうです)

ただ、ながやす先生によると、今でもこの最終バージョンのコンテを作って「浅田先生が御覧になっていれば気づかれたのに!」と悔やまれたことも時にはあるとか。
たとえば以前、2章で「刀掛けの刀が逆位置だった!」とか「奥州鎮撫軍の九条総督の衣裳が武士(将軍)の格好になっている(九条様は公家だから、烏帽子と直垂姿でないとおかしい)」など、浅田先生から設定上の御指摘を頂いたことも…。
今もペン入れの最中に「しまった! 修正が必要だ。最終コンテがあれば浅田先生チェックが入ったはずなのに!」と後悔するケースが稀に発生するようです。設定には微に入り細をうがっても、やはり時として、上手の手から水はこぼれるものですね。

さて、ここまで絵コンテを煮詰めたところで、いよいよ次回は下描きそしてペン入れに突入! 当然ながら「ながやす流」は、ペン入れにも独特の作法を編み出しました。

本編カット ページ上段中央に注目。完成原稿では、奥州鎮撫軍の九条総督の衣裳がきちんと、烏帽子と直垂姿になっています。
→次回
【人物はぶっ続け一気描き】に続く
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